債権回収問題の解決方法、手段として、公正証書と訴え提起前の和解(即決和解)方法が挙げられます。
今回は、公正証書と訴え提起前の和解について、手続きの流れ、違いなどを簡単かつ分かりやすくまとめてみます。
公正証書について
公正証書とは、公証人が作成する公文書をいいます。
遺言や各種契約書、合意書などを公正証書(公文書)にすることで、記載内容の証明力が高まります。
また、一定の金銭の支払い等を内容する契約について、強制執行認諾文言を含めて公正証書にしておくと、民事裁判などの手続を経なくても、公正証書に基づいて強制執行することができます(民事執行法22条5号)。
※強制執行認諾文言とは、金銭の支払い等を怠った場合は直ちに強制執行に服する旨の陳述の記載をいいます。
訴え提起前の和解(即決和解)について
訴え提起前の和解(即決和解)とは、民事訴訟を提起する前に、簡易裁判所に和解を申し立てて、紛争を解決する手続きです。
訴訟ではありませんが、裁判上の和解の一種で、民事上の紛争を解決するための裁判手続きです。
当事者間で和解・合意をし、裁判所がその和解・合意が相当と認めた場合、裁判上で和解が成立したものとして和解調書が作成されます。
和解調書は、確定判決と同一の効力を有しますので、これを債務名義として、強制執行することができます(民事訴訟法267条、民事執行法22条7号)。
両手続の共通点と相違点
○共通点
公正証書と訴え提起前の和解(即決和解)は、いずれも当事者間で和解・合意が成立した場合に利用する手続きです。協議中・紛争中である場合には利用できません。
また、強制執行認諾文言付公正証書と和解調書に基づいて、強制執行することができるという点も共通します。
○相違点
公正証書と訴え提起前の和解(即決和解)の違いは、様々ありますが、債権回収問題において重要な違いは、次のとおりです。
まず、公正証書は、その内容が金銭の支払い等を契約以外の場合、これに基づいて強制執行できないという点にあります。例えば、家賃の滞納問題などで、滞納家賃の回収と併せて建物や土地などの不動産の退去・明渡しも行う場合、仮にこの点の和解が成立し、公正証書を作成しても、退去や明渡しについては強制執行できません。
これに対し、訴え提起前の和解(即決和解)は、和解内容について、金銭の支払い等に限られません。不動産の退去や明け渡し、物の引き渡しなども和解内容とし、債務者が履行を怠った場合、和解調書に基づいて強制執行することができます。
次に、公正証書は、作成内容が当事者間の民事上の紛争に限られません。遺言や各種契約書を公正証書にできるほか、離婚の取り決め(親権・養育費や財産分与など)なども公正証書にすることができます。
これに対し、訴え提起前の和解(即決和解)は、民事裁判の前の和解手続きですので、民事上の紛争が生じた場合しか利用できません。遺言やトラブルの生じていない当事者間での契約書の作成、離婚など家事事件の和解・取り決めには、利用できません。
また、それぞれの作成にかかる費用や期間も異なります。
公正証書は、収入印紙や公証人に支払う作成手数料(手数料額は原則として目的の価額により変動します。)がかかり、金額は、作成する内容によって変わります。公証人や当事者間の予定の調整がつけば、すぐに作成することが可能です。
訴え提起前の和解(即決和解)は、申立て1件あたり2,000円と書類郵送のための郵便切手が必要ですが、公正証書より安価で済む場合が多いでしょう。ただし、裁判所による申立書類の審査や期日調整が必要となるため、申立てから和解調書作成(和解期日)まで1カ月程度かかる場合が多いです。
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