債権回収の弁護士コラム

債権回収と民法改正による消滅時効

 債権回収において、適切に時効を管理することは大変重要です。

民法改正(令和2年(2020年)4月1日施行)により、債権の消滅時効に関する規定が変更されています。

詳細は後述しますが、改正法は、債権の消滅時効について、従来の「権利を行使することができるときから10年間(客観的起算点)」に加えて、新たに「権利を行使することができることを知ったときから5年間(主観的起算点)」が新設されました。

また、民法改正前の職業別の短期消滅時効(改正前民法170条から174条)や商取引によって生じた債権の例外(改正前商法522条)は、廃止され、上記の一般債権と同じ時効期間となりました。

 

1.債権の消滅時効に関する民法改正(概要)

1-1.改正の概要

民法改正(令和2年(2020年)4月1日施行)により、債権の消滅時効に関する規定が変更されています。

改正前の民法では、債権の消滅時効について、権利を行使することができるときから10年間を原則とし、その例外として、職業別に短期消滅時効が定められていました。

改正により、債権の消滅時効は、

①権利を行使することができるときから10年間

②債権者が権利を行使することができることを知ったときから5年間

のいずれか早い方が満了したときに、完成することになりました(民法166条1項)。

 

職業別の短期消滅時効(改正前民法170条から174条)は廃止され、上記の一般原則(民法166条1項)の適用を受けることになりました。

また、商取引によって生じた債権の時効(改正前商法522条)も廃止されたため、今後は商取引か否かによって時効期間が変わることはありません。

 

なお、廃止された消滅時効には、次のものがあります。

 

(廃止された短期消滅時効)

(旧170条)

・医師、助産師又は薬剤師の診療、助産又は調剤に関する債権(3年)

・工事の設計、施工又は監理を業とする者の工事に関する債権(3年)

(旧171条)

・弁護士又は弁護士法人がその職務に関して受け取った書類についての返還請求権(3年)

(旧172条)

・弁護士、弁護士法人の報酬請求権(2年)

(旧173条)

・生産者、卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権(2年)

・自己の技能を用い、注文を受けて、物を製作し又は自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権(2年)

・学芸又は技能の教育を行う者が生徒の教育、衣食又は寄宿の代価について有する債権(2年)

(旧174条)

・月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権(1年)

・自己の労力の提供又は演芸を業とする者の報酬又はその供給した物の代価に係る債権(1年)

・運送賃に係る債権(1年)

・旅館、料理店、飲食店、貸席又は娯楽場の宿泊料、飲食料、席料、入場料、消費物の代価又は立替金に係る債権(1年)

・動産の損料に係る債権(1年)

 

(廃止された商事消滅時効)

(旧商法522条)

・商行為によって生じた債権(5年。ただし、商法に別段の定めがある場合や他の法令に五年間より短い時効期間の定めがある場合はその定めによる。)

 

1-2.時効の起算点

時効の起算点とは、いつの時点から時効期間が開始するか、という問題です。

 

消滅時効の客観的起算点

消滅時効の客観的起算点とは、債権者が法律上の障害なく権利行使ができる状態になった時点のことをいいます。前述の条文の規定では、「権利を行使することができるときから」という規定がこれにあたります。

 

客観的起算点の場合、債権者が権利を行使できることを知らなくても、消滅時効が進行することになります。

 

消滅時効の主観的起算点

消滅時効の主観的起算点とは、債権者が権利を行使することができることを知った時点のことをいいます。

 

具体的には、債権者が債務者や当該債権の発生、履行期の到来を現実に認識した時をいうとされています。前述の条文の規定では、「権利を行使することができることを知ったときから」という規定がこれにあたります。

 

1-3.改正法はいつから適用されるか

債権は日々発生するものであるため、改正法がいつから適用されるのかを把握しておく必要があります。

この点、改正法附則第10条4項は、民法改正の施行日(令和2年(2020年)4月1日)前に債権が生じていた場合は旧民法が適用され、施行日以後に債権が生じた場合には新民法が適用されるとしています。

もっとも、民法改正の施行日以後に債権が生じた場合であっても、その原因である法律行為が施行日前になされていたときは、改正前の消滅時効期間が適用されます。

 

2.債権一般の消滅時効と異なる定めのある債権

前述の債権一般の消滅時効と異なる消滅時効の定めがある主なものは、以下のとおりです。

 

2-1.人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権

人の生命・身体が侵害されたことにより生じた損害賠償請求権は、債権者(被害者)が時効の進行を阻止するための行動をとることが困難である等の理由により、債権一般の消滅時効よりも長期の時効期間が設けられています(民法167条)。

 

①権利を行使することができるときから20年間

②債権者が権利を行使することができることを知ったときから5年間

 

のいずれか早い方が満了したときに、消滅時効が完成することになります。

なお、不法行為による損害賠償の請求権については、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間、不法行為の時点から20年間という特別の消滅時効期間が定められていますが(民法724条。この定めは民法改正でも維持されています。)、人の生命・身体が侵害されたことにより生じた損害賠償請求権の場合は、不法行為であっても短期消滅時効の期間を5年間として、民法167条の定めと平仄を合わせています(民法724条の2)。

 

2-2.定期金債権

定期金債権とは、定期的に金銭その他の代替物を給付させることを目的とする債権のことをいいます。年金などがこれにあたります(ただし、公的年金の消滅時効については国民年金法等で特別の定めがあります。)。

定期金債権は、一定期間ごとに給付される個々の債権(支分権といいます。)のほかに、その元となる基本権が観念できます。ここでは、基本権としての定期金債権の時効について説明します。

 

定期金債権は、以下の①及び②のいずれか早い方が満了したときに、消滅時効が完成します(民法168条)。

基本権としての定期金債権が時効により消滅した場合、その時点で生じていた支分権たる個々の債権も同様に消滅し、それ以降の支分権も発生しなくなります。

 

①債権者が定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することができることを知った時から10年間

②定期金の債権から生じる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することができる時から20年間

 

2-3.その他

上記のほか、他の法律によって規定されている時効についても、消滅時効の規定が変更されているものがあります。

 

参考条文

 

(債権等の消滅時効)

第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。

二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。

2 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。

3 前二項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を更新するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。

(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効)

第百六十七条 人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一項第二号の規定の適用については、同号中「十年間」とあるのは、「二十年間」とする。

(定期金債権の消滅時効)

第百六十八条 定期金の債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

一 債権者が定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することができることを知った時から十年間行使しないとき。

二 前号に規定する各債権を行使することができる時から二十年間行使しないとき。

2 定期金の債権者は、時効の更新の証拠を得るため、いつでも、その債務者に対して承認書の交付を求めることができる。

 

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