強制執行のため相手(債務者)の銀行口座を調べる方法としては、
①弁護士会照会により調査する方法
②裁判所の第三者からの情報取得手続により調査する方法
の2つが考えられます。
1.弁護士会照会による銀行口座の調査
①弁護士会照会とは
弁護士会照会とは、弁護士法第23条の2に基づき、弁護士が受任した事件を遂行するために必要な範囲で、弁護士会を通して行政や企業等に照会できる制度です。
②弁護士会照会による銀行口座の調査
債務名義(判決、和解調書等)がある場合、弁護士会照会を利用して、三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行、ゆうちょ銀行等のメガバンクのほか、地方銀行や信用金庫、JAに対しても照会を行うことができます。
具体的には、債務者名義の口座の有無、口座がある場合は支店、口座種別、口座番号、口座残高について回答を得ることができます。
ただし、金融機関によっては、該当支店が特定できない場合には回答を受けられないこともあります。
なお、弁護士会照会を利用するためには、弁護士に事件(損害賠償請求事件等)の依頼を行っている必要があります。銀行口座の調査のためだけに、この制度を利用することはできません。
2.裁判所の第三者からの情報取得手続による銀行口座の調査
①第三者からの情報取得手続とは
第三者からの情報取得手続とは、簡単に言うと、裁判所を通して債務者の預貯金口座等の情報を取得できる制度です。
この制度には、債務者の不動産や勤務先の情報を取得する手続きもありますが、ここでは預貯金に関する手続を解説します。
②申立てができる人
この手続の申立てができるのは、金銭債権にかかる執行力のある債務名義の正本を持っている債権者や債務者の財産について一般先取特権(給料先取特権など)を有する債権者です。
執行力のある債務名義の正本とは、具体的には、判決、和解調書、調停調書、審判、仮執行宣言付支払督促、強制執行認諾文言付公正証書等です。
また、強制執行や担保権の実行をしても完全な弁済を受けることができなかった等の要件(不奏功要件、民事執行法第197条1項各号)を満たすことも必要です。
③申立先の裁判所
申立ては、原則として債務者の住所地を管轄する地方裁判所に行います。債務者が株式会社等の法人の場合、その本店所在地を管轄する地方裁判所となります。
④申立てにかかる費用
予納金として第三債務者(銀行等)1名の場合5,000円(以後1名増えるごとに4,000円追加)が必要です。その他、収入印紙1,000円や予納郵券(当事者の数に応じて変動)がかかります。
3.弁護士会照会と第三者からの情報取得手続の違い
弁護士会照会と第三者からの情報取得手続の違いは、主に①密行性の有無、②対象財産の範囲に違いがあります。
①密行性
弁護士会照会においては、通常は照会を受けた銀行等は、預金者に対し、口座情報を債権者(代理人弁護士)に提供したことを通知しません。そのため、相手方に知られずに、財産を調査できるメリットがあります。
一方、第三者からの情報取得手続は、銀行等の第三者から情報が提供されてから、債務者に情報提供通知が送付されます。例えば、名古屋地方裁判所では、原則として、第三者が複数の場合は最後に情報提供が裁判所にされた日から1か月経過した後、債務者に情報提供通知が送付されます。そのため、その時点で債務者に知られることになります。
②対象財産の範囲
弁護士会照会では、メガバンクやゆうちょ銀行以外では支店の特定が必要なケースがあります。
一方、第三者からの情報取得手続は、支店の特定は不要です。
4.注意点
①強制執行は別途行う必要がある
弁護士会照会、第三者からの情報取得手続ともに、債務者の財産情報を調査する手続きです。調査の結果判明した財産を換価して回収するためには、別途強制執行の申立てを行う必要があります。
②第三者からの情報取得手続は、早急に手続きを行う必要がある
第三者からの情報取得手続は、前述のとおり銀行等から情報提供がなされた後に、債務者に対して情報提供通知が行われます。
債務者は、この時点で強制執行を受けるリスクを認識するため、口座の残高を出金してしまうかもしれません。そのため、情報提供を受けた後、速やかに強制執行を申し立てる必要があります。
参考条文
弁護士法
(報告の請求)
第二十三条の二 弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があつた場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。
2 弁護士会は、前項の規定による申出に基き、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
民事執行法
(実施決定)
第百九十七条 執行裁判所は、次の各号のいずれかに該当するときは、執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者の申立てにより、債務者について、財産開示手続を実施する旨の決定をしなければならない。ただし、当該執行力のある債務名義の正本に基づく強制執行を開始することができないときは、この限りでない。
一 強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より六月以上前に終了したものを除く。)において、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得ることができなかつたとき。
二 知れている財産に対する強制執行を実施しても、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があつたとき。